バーベキューと煙の関係
バーベキュー用のコンロを持っている人ならば、一度くらいは家でバーベキューをやってみたいと思うのではないだろうか。
最近は人間関係が殺伐としてきていて、庭でバーベキューするのもご法度という風潮が強いのだが、だったら部屋でやればいいじゃないということで幾度かやってみたことがある。
部屋でやるからには換気を一番に考えなければならない。一酸化炭素中毒で自殺したくなければ。そして、煙を外に追い出すため、あえてベランダ側にサーキュレーターを置く。これは煙をキッチンの方向に追いやるためだ。
開始早々もうもうと立ち込める煙。換気扇の排煙能力では追いつかず、充満した煙で明日が見えないほどだ。それが安物のマングローブ炭だった日には、催涙弾を投擲されたテロリストの気分が味わえるだろう。楽しいはずの食卓がだんだん修羅場になっていく。
また、日によってはベランダ側に煙が吸いだされることがあるから、部屋の外でやってるのと大して変わらない状況になる。隣人から「ベランダなんかでバーベキューをやるんじゃねぇ」と殴りこまれそうな日には、無理してやらない方が懸命だ。そんなくだらない理由で刺された日には、顔も名前も知らないご先祖様に顔向けできない。親戚中の笑いものだ。
そもそも何でこんなことを考えているのだろう。炭火で肉や魚を焼くことくらい、もっと気軽にやれていいはずなのだ。煩わしい思いをすることなく、煙を気にせずにバーベキューは出来ないものだろうか。
炭の考察
炭と煙について考えた。
煙を出さないバーベキューをするためには、以下のことに気をつければいい。だが、3 番目が難しそうだ。
No. | 問題点 | 解決策 |
---|---|---|
1 | 煙が目にしみる | 国産の良質な炭を使う |
2 | 燃え始めに煙が出る | 炭が高温になるまで火を通す |
3 | 肉の脂が燃える | 炭に脂が滴り落ちないようにする |
炭の種類
ホームセンターで安価に売っているマングローブ炭などは煙がひどい。煙が刺激物を多く含んでいるから目にしみるというのもあるし、完全に炭化しきっていない製品があるので煙の量が多いというのもある。
以前、ホームセンターで 6kg 500 円くらいの炭を買って後悔したことがある。しかも部屋の中で使った。低品質な炭は、素材の味を楽しむバーベキューにはまったく向いていないと学習することができた。まだ 3kg くらい残ってるし、どう使おうかと考えると目と頭が痛くなってくる。ダッチオーブン料理か鉄板焼きあたりで使い切るしかないか。
それはともかく、炭には黒炭と白炭があり、マングローブ炭などは前者、かの有名な備長炭などは後者に分類される。
黒炭は 400 ~ 700 ℃程度で製造され、白炭よりも着火しやすいのでバーベキューなどに向いている。ただし、前述のように安物の炭を使ってはいけない。岩手のナラ切炭あたりがポピュラーでバーベキューにも向いているだろう。くぬぎ切炭はちょい高い。特定産地のブランド物ともなれば、高いってレベルじゃない。
白炭は 1000 ℃ほどで製造される炭で、火は点き難いが、いったん点いたら黒炭の倍は長持ちする。黒炭よりずっしりとくる分、燃えるものが多いということなのだろう。着火まで時間がかかるから手軽なバーベキューには向かないが、時間をかけてまったりやったり、前もって準備時間が取れるバーベキューなら最高だ。黒炭よりも高温で燃え、遠赤外線を良く発し、上手くやれば食材の中まで火が通りやすい。外はパリッと、中はジューシー。高級食材を焼き上げるのに向いている。ある意味でのデメリットとして臭いや湿気を吸着しやすいから、密閉コンテナに湿気取りと一緒に保管しておくのがいい。
私の場合はユニフレームのチャコスタを持ってるから、備長炭への着火はさほど苦もないが、手軽さとコストを考えれば岩手あたりのナラ切炭がいいだろう。 Amazon で買えるし。
やむなく安物の炭を使わなければならない場合も、炭が灼熱するほど高温になれば煙を出さなくなる。もしくは少なくなる。炭に火がついてから 30 分ほど置いておけばマシになるだろう。
炭については一般社団法人全国燃料協会の炭についてのよくある質問あたりが参考になると思う。
焼きアイテム (散財への抵抗)
ところで最近、無煙バーベキューのロータスグリルという製品を知った。ほとんど無煙で、室内でもバーベキューが出来るスグレモノだった。仕組みとしては、炭に脂がかからないように、コンテナ内で炭火を燃焼させるようになっている。しかもファン付だから炭の着火も簡単で、電池で動くからアウトドアでも使える。遠赤外線効果を謳っていて、ファンを最大にして炭を燃焼させれば簡単に「遠火の強火」ができそうだ。これはいい。
買おうかどうか迷った。しかし部屋中を占領するキャンプ用品を思い出すと、あまりものを増やす気にはなれなかった。これ以上部屋を狭くしてどうする気だ。ただでさえ狭い部屋が、パイプ式のハイベッド (もちろんその下は荷物でいっぱい) や PC デスクで占有され、人一人が横切れる程度の隙間しか空いていないのに。そんな状況で大き目のリクライニング・チェアがあるから通行すらままならなくなっている。
ロータスグリルはサイズ的に 14 インチのダッチオーブンと同じくらいだろうか。折り畳めないからキャンプに持って行くのはちょっとツライ。
また、今さらながら断捨離ブームが到来しているという理由もあった。ならば今あるもので何とかできないだろうか。すなわち、所有しているユニセラTG で、煙が少なく、かつ美味しく焼けるような方法を考えるのだ。
ロータスグリルは、脂が炭にかからない構造になっている。煙を発生させたくなければ、炭火の真上で焼かないことだ。普通のバーベキューは、炙られた肉から脂が滴り落ち、炭火で燃焼することで煙を発生させる。しかもその脂が炎を誘発し、食材を焦がしてしまうことがある。よろしくない。
個人的には、食材を美味しく焼き上げたい場合、煙は不要なんじゃないかと思っている。確かに、煙で燻された焼き鳥なんかは美味しい。ミネラルを含んだ灰が付着した肉は体に良さそうだ。一方で、素材の味を 100% 生かせていないようにも思える。2012.09 酒田釣行で感嘆した銀カレイが、まさに煙が出ない遠赤外線での焼き方なのだ。まあ個人による感じ方の違いはあると思う。
昔から炭火で美味しく焼き上げるコツは強火の遠火と言われている。ならば、コンロの半分に燃えたぎる炭火を積み上げ、残りの半分を空にして、その上で食材を焼けば、自動的に強火の遠火になるのではないだろうか。脂が炭火に滴り落ちることもない。一石二鳥だ。
実験
今回使うのは岩手の切炭だ。 Wild-1 では 3kg \1,500 の切炭が売っていたが、高けーよ。大き目のホームセンターをいくつかはしごして 3kg \980、 6kg \1,600 くらいというのを見つけた。 3kg の方を購入した。
STEP1. 十分に火が通った炭火を、ユニセラTG の半分に積み上げる。
切炭は綺麗に形整っていて、積み上げるのも楽だ。そして、ここまで火が通ると、煙は立ち上らない。
STEP2. 遠火で豚肉を焼く。
炭はがんがんに燃えている。肉は炭火からオフセットして焼く。これならば、脂が滴り落ちても炭に触れて燃え上がることはない。
しかし思ったより火の通りが良くない。団扇で扇いで火を強くする。
十分に火が通るまで待ち、食べてみた。煙で燻されないように焼いているため、クリアな味わい。肉から水分が蒸発して硬くなることもなく、ジューシーだ。肉の味が良く分かる。
弱点としては、火を強めるために団扇で扇ぐから、火花と灰が飛び散ること。これを解消するためには、扇がなくても熱量を確保できるように炭の量を多くして、最大限に積み上げるしかない。
今回は 1 人分だから切炭を 6 切れしか使わなかったが、この倍くらい必要だ。まあ、普通にやる分にはこれで十分なのだが。
STEP3. やがて炭火の真上で調理するようになる。
空腹に負けて炭火の真上で焼くようになった。煙は出るのだが、脂が少ない食材だからか、思ったほどでもない。
食材は煙で燻されて美味しく感じた。普段と違う焼き方だから新鮮なのかもしれない。こういう焼き方はありだと思う。
煙の上がらない焼き方は、高級食材に向いている気がする。高い肉向けかな。
STEP4. 鶏肉を焼いてみる。
最初は炭火の真上で両面を焼いて肉汁を閉じ込める。炭火の真上で焼くと、煙はかなり出る。鶏肉の皮を焼いたときに、煙が一番出た。
次に遠火で中まで完全に火を通した。肉厚の食材を遠火で焼くから時間がかかる。
実験してみて、問題点も分かった。
結論としては、部屋の中でバーベキューをするには、炭火を入れるコンテナか、カバーが必要だと感じた。コンテナ内で最大限に積み上げた炭を燃やし、遠火で焼き上げるのだ。
チャコールコンテナ
ものづくりでなるべく苦労したくないので、炭と網の間にステンレス板のようなものを斜めに置けばいいかもしれない。
∠ ← こんなカンジの。
そうすれば、滴り落ちた油はステンレス板を伝わって受け皿の端っこの方に落ちるはずだ。
案 1 – 斜め形状
肉 野菜 #######↓######## ← 焼き網 ↓ /炭炭 脂/炭炭炭 脂/炭炭炭炭 脂/炭炭炭炭炭 脂∠────── ← ステンレス板 ================= ← 受け皿
あるいは、完全な容器型にするか。
案 2 – 四角
肉 野菜 #####↓######## ← 焼き網 ↓┌─── ← ステンレス板 脂│炭炭炭 脂│炭炭炭 脂│炭炭炭 脂└─── =============== ← 受け皿
調べてみると、無煙を謳っているロータスグリルでさえも、中央部分で肉を焼けば煙が出るらしい。どういうことかというと、中央部分は炭を収めるコンテナになっていて、上部は鉄板だ。熱せられた鉄板に脂が落ちることで煙が出る。
案 1 のステンレス板も、炭火で灼熱するほど熱せられている。ということは、そこに脂が滴り落ちた瞬間、桜島のように煙が立ち上るのは自明の理だ。この機構はまったく意味がない。熱を抑えるために 2 枚板にするとか、板の上に軽石を敷く?
いやいや、大掛かりになりすぎる。キャンプ用品は単純明快なのがいいのだ。組み立てにてこずるのはファミリーテントだけでいい。
案 2 はどうか。
炭を入れるコンテナ部分の作成が難しい。錆びない鋼材ならステンレスだが、硬いのが難点だ。たった 1mm 厚でも切断が難しい。
手軽さを求めるならアルミ板になる。しかしアルミ板は薄いと熱で変形するし、備長炭を燃やすと溶ける。アルミの融解温度は 660 ℃。備長炭の最大燃焼温度は 1,000 ℃くらいだ。
加工と炭の燃焼しやすさを考えるなら金属メッシュだ。しかしどうやって接着するよ。針金使って結ぶか?
どの鋼材にもいえることだが、バーベキューコンロの形状に合わせて 1 枚板から入れ物を作るのは、かなりの手間がかかる。溶接なんてできないし、やれるとしたら切る、曲げるくらいのものだ。
いっそ鉄板で焼くか? それなら炭に脂が落ちることはない。
気になるところではユニセラTG の社外品の鉄板だ。鉄板の半分にスリットが入っていて、鉄板の下に炭を積み上げ、スリット部分で肉を焼けばいいんじゃないかと考えた。
重厚な鉄板の蓄熱性に加え、スリットから脂を落とせる構造になっている。スリットから脂が落ちたとしても、真下に炭を置かなければ煙が立たない。万一煙が立ったとしても、鉄板で蓋がされている状態だからそうひどいことにはならないと推測する。
惜しむらくは、炭火焼と言うには少し鉄板焼き寄りなことだ。鉄板の上に焼き網などを置いて、食材が鉄板に直接触らないよう工夫すればいいのかもしれないが、だったら何のための鉄板だという話になり、私の考える用途には向いていない。
余計な脂が抜けて美味くなるのがバーベキューの醍醐味。脂を抜くならジンギスカン鍋やグリルプレートでもいいが、鉄板を使うと遠赤外線ではなく、鉄板の熱で焼くことになってしまう。
やはりコンテナで実験してみるしかないか。
とりあえず次回 (時期未定) に続くといいなぁ……